子供を持つ選択、持たない選択


子供を持つかどうか、それは多くの人にとって、とても大切で難しい問題です。
何となく子供は欲しいけれど、仕事に、生活に、忙しくて、それどころでない方も多いと思います。
パートナーの気持ちだって大切です。

お金もかかります。まだ親になる気持ちの準備ができていないと感じるかもしれません。
周囲からのプレッシャーに嫌気がさすこともあるでしょう。

医学的には「妊娠・出産の適齢期は20代」と言われます。
男性も、年齢を重ねるごとに子供を授かりづらくなると言われています。
でも、学業を修め、就職して、仕事を覚え、責任ある仕事を任されるようになって・・・
子供のことは後で、と単純に先延ばしすれば、時はあっという間に過ぎてしまいます。

パートナーと深く話し合わないまま、時が経ち、気づいたときには子供を持つ選択肢がなくなっている場合もあります。
私たちは、子供を持つことにタイムリミットがあることについて、医学的な立場から発信してきました。
しかし、子供を持つ、あるいは、持たない選択をするのは何と難しいことでしょうか。
本ウェブサイトは、医学知識を知らせるだけでなく、一人一人にとってベストな選択ができるようにサポートしたいという思いから立ち上げたものです。
どのような家族を築いていくべきか迷っている皆様にとって、少しでもヒントになれば幸いです。

前田恵理 秋田大学大学院医学系研究科
平山史朗 東京HARTクリニック
齊藤英和 国立成育医療研究センター

My Fertility Choices.com(日本語版)

My Fertility Choices.comはカナダの心理学者であるJudith Daniluk教授とEmily Koert博士が作られた「生殖に関する選択」を応援するウェブサイトです。
文化の違いはありますが、日本の皆様にとってもヒントとなる考え方が多数掲載されています。
ダニラック教授から許可を頂いて日本語訳しましたので、ごく一部ではありますが、ここに紹介したいと思います。
興味を持たれた方は是非オリジナルサイトを訪れてください。

第1章 子供を持つかどうかの意思決定の方法とは

第1節 子供を持つのかどうか、いつ持つのかをどう決めればいいのでしょう?

人生は決断の連続ですが、そのなかには特に重大な決断もあります。
簡単な決断であれば、過去の経験や直感から無意識にしていることが多いでしょう。
でも、間違えたら人生に影響するような重大な決断は、通常、時間をかけて行わなくてはなりません。
そういった人生の一大決心をする時に使うのは、直感だけでなく、頭と心です。
親になるかどうかということも、まさに人生の一大決心です。
一生に一度の、取り消しのきかない決断です。仕事は気に入らなかったら変えられます。

パートナーとうまくいかなくても、別れることができます。
でも、親になったら、逆に、親になる選択を逃してしまったら、もう引き返せません。
つまり、子供を持たないと決めたら、生物学的に子供を持つ選択ができなくなる時期がやって来るのです。

後になって気持ちが変わっても遅すぎるかもしれません。
逆に、いったん子供を持っても引き返せません―あなたは生涯、子供の親なのです。
また、率直にいうと、親であるとは大きな責任を背負うということであり、多くの犠牲を伴います。
ですから、子供を持つかどうかという決断は、軽々しくできるものではありません。
子供を持つかどうかという決断が、人生の他の多くの決断とどう違っていて、どのように重要なのか、理由は他に二つあります。
まず、子供を持つと決めたら、新しい生命をこの世にもたらすことの責任を引き受けることになります。
この小さな人がどんな人になり、どんな個性をもち、どんな夢や希望をもつのか、事前に何もわかりません。

そして、親になって子供と生活し始めるまで、自分たちがどんな親になるのか、この新しい人と新しい役割を受け入れるのにどう生活を変えていかなければならないのか、確実に知ることは、おそらくできません。
友人の子供や自分の姪や甥でした経験や、今している経験から推測はできます。
でも、その経験は、自分の子供に対して四六時中100%責任を負うことと同じではありません。
我が子がどんな問題に遭遇するかもわかりませんし、親であるということの多事多難に耐えられるのかどうか、確実に知るのは無理です。
ならば、どうやって、このような人生を左右する決断をすればよいのでしょうか。どんなことを考える必要があるのでしょうか。
この決断をする上で考えるべき大事なことはたくさんあります。

  • あなたの望み
  • あなたの価値観
  • 親になること/子供をもたないことに対して払う犠牲と得られるメリット
  • あなた自身の「親になる資質」
  • パートナーの「親になる資質」
  • 将来後悔する可能性
  • 親になることに対するパートナーの感じ方

このあと、こういった重要なテーマについて一つずつ、対処の仕方、検討の仕方をお話ししていきます。
自分の立ち位置がもうわかっていることもあれば、そうでないこともあるでしょう。
それぞれを一つずつ検討していくことで、自分にとって正しい決断に近づいていくはずです。
しかし、こういう課題に自分なりに取り組んでも、子供を持つことが自分にとって正しい決断なのかどうか確信が持てない場合や、あなたとパートナーが子供を持つかどうか、いつ持つのかについて合意していない場合には、カウンセラーへの相談を考えてもよいでしょう。
特に、決断を迫られているように感じる時や、あなたとパートナーがこの重要な話題で行き詰まっているような場合、外からの中立的な視点はとても参考になることがあります。

この決断を考えるのに役立つ本もあります。

The Baby Dilemma? How to Confidently Decide Whether or Not to Have a Child and Feel Good About It by Ann
Meredith(2011)
ジレンマで悩んでいますか? 子供を持つ、持たない—自信をもって決めてすっきりするには アン・メレディス著(英語版のみ)

The Parenthood Decision: Deciding Whether You are Ready and Willing to Become a Parent by Beverly Engel(2003)
親になるという決断—もう親になれる?なりたい? ビヴァリー・エンゲル著(英語版のみ)

Maybe Baby: 28 Writers Tell the Truth about Skepticism, Infertility, Baby Lust, Childlessness,
Ambivalence, and How They made the Biggest Decision of their Lives edited by Lori Leibovich(1995)
赤ちゃん欲しい?—作家28人が語る真実:いらない、不妊、たまらなく欲しい、子供のいない生活、割り切れない気持ち、
彼女たちはいかにして人生最大の決断に至ったか。ロリ・レイボヴィッチ編(英語版のみ)

Do I want to be a Mom: A Woman’s Guide to the Decision of a Lifetime by Diana Dell and Suzan Erem(2003)
私、ママになりたい? 女性のための一生に一度の決断ガイド ダイアナ・デル、スーザン・エレム共著(英語版のみ)

ウェブに上がっている、子供を持つ/持たない決断について書かれたブログや文献も参考になるでしょう。数例をあげておきます。

https://www.babycenter.com/ready-for-parenthood
http://twomommys.com/lesbian-parenting-deciding-if-and-when-to-have-a-baby/

第2章 自分の望みを評価してみよう

第1節 子供を持つことで自分のどんな望みを満たせるのでしょうか。そのような望みを満たす他の方法はあるのでしょう。

アブラハム・マズローの自己実現理論について聞いたことがあるのではないでしょうか。
マズローの理論によると、人の欲求は5つに分けられます(図1)。

【図1】マズローの自己実現理論(日本語版翻訳者作成)

【生理的欲求】生きるために欠かせない欲求。飲食、空気、睡眠に対する欲求があります。

【安全欲求】安定した収入や安全な住みか、避難場所、十分な健康など、安全・安心に対する欲求です。

【社会的欲求】人間関係に対する欲求で、受容、愛情、愛着、所属への欲求があります。

【承認欲求】他人から認められること、業績、個人財産に対する欲求に関係します。

【自己実現の欲求】個人的に成長したという感覚、能力や目的を達成した感じ、生きる意味が果たされたという感覚に関係します。

この理論によると、いったん生理的欲求と安全欲求が満たされると、個性によって程度に違いはあるものの、人は社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求を満たそうとするそうです。

社会的欲求を例に取ってみましょう。家族や友人といった基本的な関係以外には社会的欲求が低い人もいます。
こういう人は、自分の仲間にとても満足しています。逆に、社会的欲求がとても高い人もいます。
こういう人は、他の人といるときが最高に幸せで満足しており、家族、友達、パートナー、動物、そして様々なグループ(地域社会、宗教、活動)の一員になることで満たされる、大きな社会的欲求を持っています。

では、子供を持つかどうかという決断とこういう欲求はどう関係するのでしょう。
欲求を一つずつ正直に評価していけば、子供を持つことが、自分の社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求を満たすのに重要なのか。
子供を持つ時に利用できる人的・物的な手立てが生活の中にあるのか、そういう手立てはないけれど、子供を持つことが自分にとって重要な欲求だった場合、子供を持つには何を変えなければならないのか、といったことがわかるでしょう。

一つ、ワークをやってみましょう(図2)。

一枚の白紙に3つの欄を作ります。左の欄に、生理的欲求から自己実現欲求までの5つの欲求を書きます。
5つの欲求のそれぞれに、今ある自分の欲求を書き入れます。
例えば、生理的欲求の下に「8時間寝る」と書きます。
安全欲求の下に「使えるお金がもっと欲しい」とか「もっと安全なところに引っ越したい」などと書きます。
社会的欲求の下には「自分の時間を持つ」や「誰かと親密になりたい」などと書きます。
承認欲求の下には「教育課程を修了する」、「昇進する」、「山に登る」、「旅行する」などと書きます。
自己実現欲求の下には「他人に貢献する」や「世界をもっと良くする」などと書きます。
それぞれのカテゴリーにできるだけたくさん自分の欲求を書きましょう。

【図2】(日本語版翻訳者作成)

次に、二つ目の欄に、今、そういう欲求がどのくらい満たされているのか、子供がいない人生を送ったらどのくらい満足していられるかを書きます。
三つ目の欄には、子供を持つ選択をしたなら、どのくらい欲求が満たされるのかを書きます。
その後、自分が思いついたことを振り返ってみます。
例えば、子供を持つと決めたら、子育ての最初の数年間は、8時間寝たいという欲求は絶対に脇に追いやられることになります。
それでやっていけますか?
支払いを賄うのに十分なお金がないかもしれないあなたは、今の暮らしに子どもが加わる余裕があるでしょうか?
特に子育ての初期には、自分の時間を持ちたいとか、世界中を旅行して観光したいとかいうような欲求は満たしにくくなるでしょう。
それでもやっていけますか?
その一方で、子供との関係の中で得られる喜びや楽しみは、こうした代価に勝るかもしれません。
それに、子供を持つことで、別の人生に貢献したいという欲求が他の多くの欲求に勝るかもしれません。
もう一つ、欲求を評価する方法があります(図3)。

一枚の紙の左下に、安全、愛情、所属、友達づきあい、養育、自尊心、達成感、他人からの尊敬など、さまざまな欲求をすべて書き出してみましょう。
あなたにとってどの欲求がいちばん重要でしょうか。
重要なものから重要でないものまで、順位をつけましょう。
ここで、欄を二つ作ります。片方の一番上に「子供」と書き、もう片方の一番上に「他のこと」と書きます。
各欲求について、どれくらい子供が満たしてくれるのか自分に問いかけてみましょう。

例えば、愛情について、子供はあなたを愛してくれ、あなたは子供に愛情を感じるでしょう。
では、別の欄に移って、例えば、人生でパートナー、家族、友人、ペットから愛情を受けたり感じたりできる方法が他にあるかどうか考えましょう。
個々の欲求と、子供を持つことや他の方法でそれを満たせるかどうか、考えを出しつくすまで続けます。
このワークから何がわかりますか?

【図3】(日本語版翻訳者作成)

第2節 私は母性(父性)本能を感じたことや、子供が欲しいと思ったことが一度もありません。これは正常ですか。

そう思っているのは、あなただけではありません!
子供が欲しいという本能や望みを感じない男女は大勢います。
実際、最近の統計では、ここ20年、自ら子供を持たない人の割合は上昇する傾向にあり、全成人の15%が子供を持たない選択をしていると推定されています。

子供が欲しい気持ちや子供を持つことによって充実した人生にしたいという願いは、人によって違います。
子供を持つのをずっと夢見ていたので、自分が親になりたいのはわかっていた、という人もいます。
母性的・父性的本能や強い願いがあると話す人もいれば、そういうことをさっぱり感じない人もいます。

また、子供を持つことについて考えが曖昧な人もいます。
こういう人は、特定の年齢や大きな節目(例えば35歳の誕生日など)に達した時とか、何らかの出来事(例えば、親の死、子供を本当にほしがっている人との恋愛、友人が子育てを始めた時)をきっかけに初めて、親になることについて考え始めたりします。
誰かの面倒をみたい気持ちがボランティア活動やペットの飼育などをすることで満たされ、充実している人もいますし、誰かの世話をしたいとは思わず、他のことで充実していて幸せな人もいます。
子供を欲しいとあなたが感じていないのなら、皆、満たされたいから子供が欲しいのだというまことしやかな神話を覆した、ジェニファー・ショーン作の傑作『Baby Not on Board: A Celebration of Life Without Kids (2005)赤ちゃんいませんが何か?—素晴らしきノーキッズ人生 』(英語版のみ)は楽しく読めるかもしれません。

第3節 子供が欲しくないのは自分勝手でしょうか。

子供を持たない選択をした大人は「自分勝手」だといわれることがあります。こういう物言いは人を傷つけます。
こんなふうに批判されたり、そんな態度を取られたりすると、
あなたは、子供が欲しくないからいないのだと認めるのを恥ずかしく思ったり、決まりが悪く感じるかもしれません。
「後で後悔するよ」と言われたり、「年を取ったとき、誰があなたの面倒を見るの?」と聞かれたりしたら、自分の決断に自信が持てなくなるかもしれません。
子供を持つことにした人にいろいろな理由がたくさんあるのと同じように、子供を持たないことにした人にも、それぞれの理由があるのです。
子供が欲しいのかどうかと考えても悪くありませんし、子供を持たない決断をしても、自分勝手な人にはなることはありません。
それどころか、責任感のある人になります。

第4節 子供がいなかったらむなしい人生になるのでしょうか。満たされない思いをするのでしょうか。

子供がいなくても、充実した有意義な人生を築き上げている大人は大勢います。
姪や甥と過ごしたり、子供のスポーツチームのコーチをしたり、Big SistersやBig
Brothersのような団体に志願したりして子供と関わる生活を選ぶ人もいますし、そういう選択をしない人もいます。ペットに尽くす人もいます。

そのほかにも、自分の人生が有意義で幸せなものになるような活動に生涯いそしむ人もいます。
不妊で自然には子供ができない人も、たいていは悲しみから抜け出し、有意義な人生を築く道を見つけます。
子供と関わる人もいれば、そうしない人もいます。子供のいない人生では満たされないと思う人は、子供がいなくても幸せで充実した人生を築いた人たちの体験談に興味があるかもしれません。

参考になりそうな本もあります(※)。

Two is Enough: A Couple’s Guide to Living Childless by Choice by Laura S. Scott (2009).
二人で十分。チャイルドフリーを選ぶカップルのガイドブック ローラ・S・スコット著(英語版のみ)

Beyond Motherhood: Choosing a Life without Children by Jeanne Safer (1996).
母親であることを超えて—チャイルドフリーで生きる選択 ジャンヌ・セーファー著(英語版のみ)

Without Child: Challenging the Stigma of Childlessness by Laurie Lisle (1999).
チャイルドフリー—子供がいないのは悪くない ローリー・リスル著(英語版のみ)

Complete without Kids: An Insider’s Guide to Childfree Living by Choice or Chance by Ellen L.Walker (2011).
ノーキッズで完璧—チャイルドフリーで生きる人、チャイルドフリーを選んだ人のガイドブック エレン・L・ウォーカー著(英語版のみ)
この研究はドキュメンタリーになりました。http://www.childlessbychoiceproject.com/

ユーモアがあるのは

Baby Not on Board: A Celebration of Life Without Kids by Jennifer L. Shawne (2005).
赤ちゃんいませんが何か?—素晴らしきノーキッズ人生 ジェニファー・ショーン著(英語版のみ)

考えの似た人で、親ではない人や親になるつもりがない人を見つけるのは難しいことがあるので、多くの大都市には、子供がいない大人だけのグループがあります。そこで、他の人と交流したり、いろいろな活動(例えば、スポーツ、旅行、映画など)を
一緒に続けたりすることができます。このようなグループが地元にないのなら、インターネットで探してみましょう。
子供がいないことについて書いているブログも無数にあります。これらは、子供がいないことを体験できる窓になることでしょう。

http://www.nokidding.net/
http://www.childfree.net/

※訳者注 日本語の本もご紹介します。

「不妊治療のやめどき」 松本亜樹子著 (WAVE出版)
「三色のキャラメル」 永森咲希著 (文芸社)
「子の無い人生」 酒井順子著 (角川書店)

第5節 パートナーは一生子供はいらないと思っています。でも、私には親にならない一生は考えられないのです。
どちらの望みを優先すべきでしょうか。

どちらの望みも大切です。両立は難しいこともあります。両立どころか対立すらしているようなら、調整はとても難しくなります。
正直に気持ちを打ち明けてパートナーと話し合いましょう。あなたの子供がほしいという強い願いを伝えましょう。
あなたの望みを満たせるよう、パートナーは子供を喜んで持とうとするでしょうか。
子供はいらないというパートナーの気持ちは同じくらい強いでしょうか。
行き詰まったら、カウンセラーに相談して手助けしてもらうのもよいでしょう。
どんな関係であれ、相手の望みを叶えるために、自分の望みを譲らなければならないことはありますし、その逆もあります。
たとえば、誰の仕事を優先するのか、どこに住むのか、といったことです。この種の譲り合いは、健全な関係には大切です。
しかし、子供を持つことが二人のどちらかにとって本当に大事で、子供を持たないことがもう一人にとって同じように大事なら、子供を持つかもたないかという決断で、二人の関係が壊れてしまうことがあります。
ですから、双方の望みを満たす妥協点が見つからないのなら、自分自身に厳しい質問を問いかけなければなりません。

  • 子どもがほしいという願いはどのくらい強いか?親になることで、どのような欲求が満たされるか?
  • その欲求を満たすのに、納得して実現できる方法は他にないか?
  • この先—子どものいない10年後、20年後、30年後の生活を想像できるか?
  • パートナーとの関係のほうが子どもを持つことよりも大事か?
  • パートナーの望みを叶えるために子どもを持たないことにしたら、恨むことになりそうか?

最後の質問は特に重要です。
特にこういう重大な人生の選択をめぐって二人の間に怒りが生まれて溜まると、怨恨の種になってしまうからです。
いったん植え付けられると、怒りはふくれあがり、わだかまることがあります。
これは、実際によく起こります。鬱屈した怒りは、二人の間のあらゆる面を蝕んでいく毒のようになりかねません。
大事な願いが満たされない場合、その関係に別れを告げなければならないこともあります。
愛する人との別れを意味する場合、これは特に途方もなく苦しく難しいことでしょう。
でも、心の底から、自分には子どものない人生は考えられないと思っているのなら、勇気を振り絞って別れましょう。
まだ時間があるなら、あなたと同じように親になりたいという別のパートナーを見つけられるでしょう。
もう時間があまりないと思っているのなら、一人親になるという選択(※)もあるかもしれません。

※訳者注
日本では生殖医療に関する法律はまだなく、提供された精子や卵子から出生した子供の権利が十分に確保された状況とはいえません。
わが国では、生殖医療は日本産婦人科学会のガイドラインに基づいて実施されていますが、生殖医療を受けることが出来るのは夫婦に限られています(事実婚を含む)。
また、代理懐胎も禁止されています。カナダと日本では、法制度や生まれてくる子供の権利や福祉に違いがあることに留意してください。

第6節 自分一人で子供を持つと決めた場合、一人親としてどんなサポートが必要になるでしょうか。

※訳者注
日本では生殖医療に関する法律はまだなく、提供された精子や卵子から出生した子供の権利が十分に確保された状況とはいえません。
わが国では、生殖医療は日本産婦人科学会のガイドラインに基づいて実施されていますが、生殖医療を受けることが出来るのは夫婦に限られています(事実婚を含む)。
また、代理懐胎も禁止されています。カナダと日本では違いがあることに留意した上で参考にしてください。

カナダの古い諺に「子育ては村ぐるみでするもの」というのがあります。
その通りで、一人で子育てを完璧に行うことはできませんが、意識的、意図的に一人親になることを選ぶ女性や男性も増えています。
一緒に親になりたい相手が見つからなかったから、という人もいます。パートナーが子供は持たないと決断したから、という人もいます。
一人で子育てしようというのは立派なことですが、何もかも一人でこなさなくていいのです。
補助、支援、資源を求め、確保することは、一人親になることへの立派な備え方です。
あなたが得られるサポートについて、頭の中で表を作ってみましょう。

情緒面の支援と資源
実践的な支援と資源
財政的な支援と資源

同僚や上司の支援
医療補助/保険給付
コミュニティの支援

今、どんな援助を利用できますか。欠けているところはどこでしょう。できるだけ備えておけるよう、
どうすればその欠けている部分を埋められるかを考えましょう。一人親になる前に確保できる支援は多ければ多いほどよいです。
一人親支援グループも、必要な資源やサービスの発見と利用にとても役立つでしょう。
他の一人親と話すことは、子育ての実践や情緒的な支えについての重要な情報源になるでしょう。
自分の身近に一人親支援グループがあるかどうか、インターネットを検索して調べましょう。

役に立ちそうな本もあります。

Choosing You: Deciding to Have a Baby on My Own by Alexandra Soiseth (2008).
自分選び—シングルペアレントになる アレクサンドラ・ソイセス著 (英語版のみ)

Choosing Single Motherhood: The Thinking Woman’s Guide by Mikki Morrissette (2008).
シングルマザーの道—考える女性のガイドブック ミッキ・モリセット著 (英語版のみ)

Single Mothers by Choice: A Guide for Single Women Who Are Considering Or Have Chosen Motherhood by Jane
Mattes(1994).
「シングルマザーを選ぶとき」 ジェーン・マテス著 鶴田 知佳子訳(草思社)

The Single Mothers by Choiceグループは、Jane Mattesによって設立され、北米全体に支部があります。
他にも役立ちそうな情報源がインターネット上にあります。

www.ChoiceMoms.org
www.singledad.com
www.singlefather.org

第3章 子供を持つことに対する価値観

第1節 子供を持つことに対して、私はどんな価値観と信念を持っているのでしょう。

もう一点、子供を持つかどうかを決める時に大事なことは、あなたの価値観と関係しています。
価値観とは、あなたの行動や世界観、そして世界における自分の居場所を形づくる原則や信念のことです。
程度の差はあっても、価値観は、個人の性格や家族、所属する文化によって形づくられていきます。
あなた自身の価値観あなたの家族の価値観あなたの文化の持つ価値観、が同じでないために、わかりにくく、あやふやに感じるかもしれません。
ですから、子供を持つことについては、あなたと家族と文化という3つの価値観を分けて考えることが大切です。
そうすることで、自分の立っている場所がよくわかるようになります。
その手始めとして、子供を持つこと、あるいはチャイルドフリーでいることに関して、自分の価値観や信念を書き出す方法があります。

例えば、子供を持つことは有意義な人生にとって必要と考えますか。親になることで人として向上すると考えますか。
子供を持てば、絶対に孤独な老人になることはなくなると思いますか。
世界はもう過密だ、これ以上世界で子供を増やすのは無責任だと思っていますか。
そして、子供を持たない人をどう思いますか。そういう人は利己的だと思いますか。
そういう人は年老いたら孤独になると思いますか。それとも、子供を持たないという選択は、社会的、環境的に賢明な決断だと思いますか。
子供を持つことの重要性、そしてチャイルドフリーの人について、自分の考えを洗いざらいどんどん書き出しましょう。
それが終わったら、できたリストを読み返し、その考えがどこから来たのか自問しましょう。
家族から来た考えはどれでしょう。文化から来た考えはどれでしょう。
あなた個人にとって、これは本当にそのとおりだと思える考えはどれでしょう。
子供や養育、有意義な一生の送り方について、あなた個人が何に価値を置いているか整理することは、このプロセスの重要ステップです。
また、パートナーがいる場合は、子供を持つことに対するパートナーの考えや価値観を整理することも、決断の際に重要です。
二人の人生に対する価値観が同じでないなら、子供を持つことの大事さについての考えや価値観が食い違っているなら、
子供を持つかどうか意見が一致するまでとても大変でしょう。
長い目で見ると、あなたとパートナーの双方が満ち足りた有意義な人生を一緒に築いていくというのは、ハードルの高いことになるでしょう。

第2節 親になりたいとは思うのですが、自立した生き方がとても気に入っています。自由がなくなることにうまく対応できるかどうかわかりません。自分にとって何が大切か、どう順位付けすればよいのでしょうか。

あなたは、親になりたい気持ちと自立した生活スタイルを続けたい気持ちという、相容れない価値観に気付いたのですね。
二つの価値観をそれぞれに解き明かして分析していきましょう。
一枚の紙の真ん中に線を一本引き、それぞれの欄の見出しに「自立した生き方」、「親になること」と書きます(図4)。
「自立した生き方」の欄の下に、そういう生き方の中に見出せる価値を全部書き出しましょう。
きっと、好きなように動ける自由がある、旅行できる、スケジュールに融通が利く、いろいろなことに熱中できる、転職してキャリアアップできる、などがあるでしょう。「親になること」の欄でも同じようにします。

たとえば、子供の人生に良い影響を与える、必要とされていると感じる、パートナーについて気に入っているところが子供にも現れる、パートナーとの関係が次の段階に進む、家族ができる、自分の両親とって孫ができる、文化になじむ、などがあるかもしれません。

では、書き出したことが自分にとってどのくらい大事かを一斉に評価します。
1をとても重要、4を全く重要ではないとして、1~4の数字をつけていきます。
別の紙に、1と評価したとても重要なものを全部書き写して表にします(とても重要なことのリストを作りましょう)。

【図4】(日本語版翻訳者作成)

リストの中のどれかに優先順位を付けられますか?そうしたら「とても重要なこと」リストの一番上に何が来ているかを見ましょう。
自立した生き方と親になること、リストの上位を占めているのはどちらの項目でしょうか?
たいてい、特定の一面がはっきりと現れてきます。ここで、自立した生き方と親になることについて、自分にとって本当に大事なことは何?と自問しましょう。あなたは旅行が大好きなのかもしれません。
自分にとってそれがとても大事だとしたら、子供をもってからも旅行を優先させられるでしょうか。
あなたは子供に教えることを大事にしているかもしれませんが、そのために親になる必要があるのでしょうか。
自立した生き方を続けながら子供に教える方法はほかにないでしょうか。
このワークで、自分にとって大事なことを詳しく分析しやすくなりましたか。
まだ確信が持てないなら、カウンセラーに相談して決断を助けてもらうのもいいでしょう。

第4章 子供を持つこと・持たないことのメリットとデメリット

第1節 子供を持つこと、持たないことのメリットとデメリットは何でしょうか。

よく知られている一般的な意思決定法の一つに、費用対効果分析があります。効果(メリット)と費用(デメリット)を挙げたうえで、あなたの欲求と価値観から見て、より重要な項目に重みづけするという方法です。

子供を持つことの費用と効果を見極めるため、費用を「短所」、効果を「長所」として考えましょう。
二つ欄を作って、見出しに「長所」、「短所」と書きます。子供を持つことについて、思いつくかぎり「長所」を書き出しましょう。
「短所」も書き出しましょう。(図5)

【図5】(日本語版翻訳者作成)

そんなにたくさんパッと出てこないと思われるかもしれません。
このリストを脇においておき、何か考えついたらまた書いてもかまいません。
2、3日か1週間続ければ、いろいろと考えが出てきて、長所、短所をたくさん思いつくでしょう。
リストを作ったら、自分にとって何が大事かに基づいて、各項目を重みづけします。
ここにはあなたの価値観が入ります。例えば、長所欄に「家系が続く」とあったとします。
その長所にどのくらい重みがあるかを考えます。
10を極めて重要、1をほとんど重要でないとして、10段階で、家系が続くことの重要度をランク付けします。
既に甥や姪がいる人にとっては、「家系が続く」という長所はあまり重要でないでしょう。だから1をつけます。
でも、あなたが一人っ子で、あなたが死んだら家系が途絶えるという場合は、10をつけたいかもしれません。
大事だけれど決定的でないのなら、5をつけます。
自分の長所・短所リストの各項目をランク付けしましょう。ランク付けが終わったら、欄ごとに重みを集計します。
どちらが重くなっていますか?
長所欄に書いた項目数が少ないのに重みが大きいのは、短所欄の項目より長所欄の項目があなたにとって大切だからです。
逆も同じです。だから、各欄の項目数やリストの長さだけに頼らずに、重みづけをすることが大事なのです。
もし長所欄の重みの合計が短所欄より大きければ、それは、子供を持つことの効果(メリット)をより強く感じているということです。
短所欄つまり費用(デメリット)の合計のほうが高いという逆の場合もあり得ます。
ここで、一歩下がって、このワークがあなたに教えようとしていることを考えましょう。
数字はどのくらいしっくりきますか?
子供を持つ方がメリットが多いらしいこと、あるいは、あなたにとってはデメリットがメリットを上回るようであることを、納得できるでしょうか。その通りだと感じますか。あるいは結果に驚いていますか。
自分の感じ方、この表から見えることに対して、自分自身に正直になるのが難しいこともあります。
真逆の決断、つまりチャイルドフリーでいる選択の長所と短所を探る費用対効果分析もやりましょう。
今あるいは将来子供を持つべきかどうか、両方向から考えることで、もっと良くわかるようになるはずです。

第1節 子供を持つこと、持たないことのメリットとデメリットは何でしょうか。

若い時期かもっと後か、子供を持つのにはどちらが良いか、という質問について、誰にでもあてはまる簡単な答えはありません。
20年前、30年前の人は一般的に20代前半から半ばに子供をもうけていました。
最近では、もっと後で親になる傾向が強くなっています。
実際に、カナダやイギリスでは、女性の大半が30代前半に第1子をもうけています(※訳者注:日本でも同様です)。
また、以前に増して、40代に子供を持つ女性が増えています。
では、若い時期に子供を持つメリットとデメリットは何でしょう。
研究結果や人々の話に基づいた文献によれば、若くして親になるメリットとして、以下のようなことが挙げられます。

若くして親になるメリット

  • 妊娠しやすい
  • 陣痛と出産から回復しやすい
  • 子供のために使える活力が豊か
  • 両親(祖父母)が若いので手伝ってもらえる
  • 逆に、若くして親になるデメリットとして、以下のようなことがあります。
  • 経済的に不安定
  • 学業の目標を達成できていない
  • キャリアが不安定
  • キャリアアップに不利

遅くに子供を持つメリットとデメリットは何でしょう。
研究結果や人々の話に基づいた文献によれば、遅くに親になるメリットとして、以下のようなことが挙げられます。

遅くに親になるメリット

  • 経済的に安定している
  • 雇用が保障され安定している
  • キャリアの融通がきく
  • より自信があり、落ち着きも大きい
  • 成熟している
  • 情緒面での「覚悟」がしっかりできている
  • パートナーとの関係が安定している(長くパートナー関係にある場合)
  • 遅くに親になるデメリットとしては、以下のようなものが考えられます。
  • 妊娠しにくい
  • 子供をもつために医学的補助が要る(体外受精など)
  • 活力が低下している
  • 両親(祖父母)が高齢で手伝ってもらいにくい
  • 子育て中に出てくる健康問題が増える
  • 子供や孫と過ごせる期間が短い

最終的には、個人あるいはカップルが自ら優先事項を重みづけをして、子供をもつのにベストな時期を考える必要があります。
参考になる本をご紹介します。

The Parenthood Decision: Deciding Whether You are Ready and Willing to Become a Parentby Beverly Engel
(2003).
親になるという決断—もう親になれる?なりたい? ビヴァリー・エンゲル著(英語版のみ)

Maybe Baby: 28 Writers Tell the Truth about Skepticism, Infertility, Baby Lust, Childlessness,
Ambivalence, and How They made the Biggest Decision of their Lives edited by Lori Leibovich (1995).
赤ちゃん欲しい?—作家28人が語る真実:いらない、不妊、たまらなく欲しい、子供のいない生活、
割り切れない気持ち、彼女たちはいかにして人生最大の決断に至ったか。ロリ・レイボヴィッチ編(英語版のみ)

Ready: Why Women are Embracing the New Later Motherhood by Elizabeth Gregory (2007).
今ならいい—女性が遅めに初めて親になるのを受け入れる理由 エリザベス・グレゴリー著(英語版のみ)

Hot Flashes, Warm Bottles: First Time Mothers Over Forty by Nancy London (2001).
ほてりとおっぱい—40歳になってから母になるということ ナンシー・ロンドン著(英語版のみ)

第3節 第三者の関与する生殖オプション(精子提供、卵子提供、代理懐胎、匿名ドナー対既知ドナー)を使うことの長所と短所は何でしょう。

※訳者注
日本では生殖医療に関する法律はまだなく、提供された精子や卵子から出生した子供の権利が十分に確保された状況とはいえません。
現在は日本産婦人科学会のガイドラインに基づいて生殖医療が実施されていますが、生殖医療を受けることが出来るのは夫婦に限られています(事実婚を含む)。
また、代理懐胎も禁止されています。カナダと日本では、法制度や生まれてくる子供の権利や福祉に違いがあることに留意し、専門家に相談してください。

家族を作るために第三者の関与する生殖という方法を使う必要が出てきた場合、費用対効果分析は、あなたの信念、価値観、感情の整理を助ける方法になるでしょう。
ドナー精子、ドナー卵子、ドナー胚、子供をもつのを助けてくれる代理懐胎の長所と短所を考える際、この方法を使えます。
しかし、長所・短所リストを作って重みづけを始める前に、このテーマについて、もっと情報を集めたほうがいいでしょう。
第三者の関与する生殖についてもっと知りたいなら、『第三者の関与する生殖/Third Party Reproduction』(未翻訳)を読んでください。
以下のようなウェブサイトからは、さまざまな第三者の関与する生殖の現実、法律面、情緒面について、もっと知ることができます。
Resolve: The National Fertility Associationで、ドナー選択のすべてがわかります。ただし、この情報は米国の情報です。
でも、カナダ人読者に関係する部分もあります。
米国生殖医学会は、第三者生殖に関する情報を集めてパンフレットにしています。カナダ人読者に関係する部分もあります。
第三者の関与する生殖の情緒面を扱っている論文もあります。
情報を入手したら、あなたが考えている選択肢の「長所」と「短所」を書き出して、表にしましょう。

表ができたら、10を極めて重要、1をほとんど重要でないとして、各項目を10段階で重みづけしします。
重要であっても決定的でない項目には5をつけます。
長所・短所リストの各項目についてランク付けをします。ランク付けが終わったら、欄ごとに重みを集計します。
どちらが重くなっていますか?長所欄の項目数が少ないのに重みが大きいのは、短所欄の項目より長所欄の項目があなたにとって大事だからです。逆も同じです。だから、各欄の項目数やリストの長さだけで決めずに、重みづけをすることが大切なのです。
もし長所欄の重みの合計が短所欄より大きければ、それはあなたが、家族を作るために第三者の関与する生殖を用いる長所を強く感じているということです。

短所欄つまり費用(デメリット)の合計のほうが高いという逆の場合もあり得ます。
ここで、一歩下がって、このワークがあなたに教えようとしていることを考えましょう。数字はどのくらいしっくりきますか?
ドナーの卵子・精子・胚を使うほうが、メリットが多いらしいこと、あるいは、あなたにとってはデメリットがメリットを上回るようであることを、納得できるでしょうか。その通りだと感じますか。

あるいは結果に驚いていますか。そして、長所、短所をひとつずつ見て、選択できない要因になるものがないか、自問しましょう。
もしかしたらあなたは、生まれてくる子供にパートナーの特徴を受け継いでほしいのかもしれません。
そうであれば、ドナー精子を使うという選択肢はなくなります。
この決断の逆、つまり、第三者の関与する生殖を使わない選択の長所と短所を探る費用対効果分析もしましょう。

あなたにとって、第三者の関与する生殖が適切で追求する価値があるかどうか、両方向から考えることで、もっと良くわかるようになるはずです。
パートナーと一緒に検討している場合は、各自で長所短所リストと作って重みづけすると参考になるでしょう。

あなたが短所だと思うことをパートナーは実は長所と考えていることがわかるかもしれません。
同じ項目の重みづけが、パートナーとあなたとで違っていることがわかるかもしれません。
こうした点は、二人で意思決定のプロセスを進める際の話し合いで、大事なテーマになるでしょう。

第4節 パートナーなしで子供をもつ長所と短所は何でしょうか。

※訳者注
日本では生殖医療に関する法律はまだなく、提供された精子や卵子から出生した子供の権利が十分に確保された状況とはいえません。
現在は日本産婦人科学会のガイドラインに基づいて生殖医療が実施されていますが、生殖医療を受けることが出来るのは夫婦に限られています(事実婚を含む)。
また、代理懐胎も禁止されています。カナダと日本では、法制度や生まれてくる子供の権利や福祉に違いがあることに留意し、専門家に相談してください。

費用対効果分析は、パートナーなしで子供をもつ決断においても、あなたの考えや気持ちを整理するのに役立ちます。
二つ欄を作って、自分ひとりで子供を持つ「長所」と「短所」を表にしましょう。
表ができたら、自分にとって何が大切かを考えて、各項目に重みづけをしまします。ここにはあなたの価値観が入ります。
例えば、長所欄に「子供がいなくて当たり前、にならない」があったとします。その長所にどれくらい重みがあるかを考えましょう。
10を極めて重要、1をほとんど重要でないとして、10段階で、「子供がいなくて当たり前、にならない」ことがどのくらい重要かランク付けします。
重要であっても決定的ではなければ、5につけます。短所欄には、子供に父親がいない、父親を知らない、などがあるかもしれません。
子供が父親を知らないことよりも生涯子供を持たないことの方が怖い、と感じる人もいれば、逆の人もいるでしょう。
各欄の重みを集計します。長所と短所、どちらが重いですか。
短所欄のほうが重くても、自分は親になるためにはそういう犠牲もいとわないと気づくかもしれません。
これが唯一の、あるいは最後の選択肢だと感じるかもしれません。こういったことが決断に役立つでしょう。

じっくり考えるのに役立ちそうな本を紹介します。

Choosing You: Deciding to Have a Baby on My Own by Alexandra Soiseth (2008).
自分選び—シングルペアレントになる アレクサンドラ・ソイセス著(英語版のみ)

Choosing Single Motherhood: The Thinking Woman’s Guide by Mikki Morrissette (2008).
シングルマザーの道—考える女性のガイドブック ミッキ・モリセット著(英語版のみ)

Single Mothers by Choice: A Guide for Single Women Who Are Considering Or Have Chosen Motherhood by Jane
Mattes(1994).
シングルマザーを選ぶとき ジェーン・マテス著 鶴田 知佳子訳(草思社)
注: The Single Mothers by Choice グループは、Jane Mattesが設立し、北米全土に支部があります。

ほかにも、役に立ちそうな参考情報がインターネット上にあります。

www.ChoiceMoms.org
www.singledad.com
www.singlefather.org

一人親に関するいろいろな人の話を「Personal Stories」(未翻訳)で読んでみませんか。
「Options for Singles」(未翻訳)のセクションもご覧下さい。

第5章 親になる資質

第1節 良い親になれるかどうか、どうすればわかりますか。

子供を持つ前にほとんどの人がこう自問します。
この問いの背後によくあるのは、良い親になれないという心配や怖れです。
親になることについて心配したり怖れを感じたりするのは当然のことです。
自分は父性的/母性的だと思わないから、「悪い」親になるのでは、と心配になるのかもしれません。
あるいは、自分が成長してきた過程で素晴らしい子育てを受けたことがなく、
自分の親が自分にした子育てよりも良い子育てができるのだろうかと考えるかもしれません。
実際、だれもが、自分の子供時代から来る固定観念や前提を子育てに持ち込みます。
でも、人生を歩んでいく中で、親の資質となるものを沢山学んでもいます。
自分が良い親になるのか、すばらしい親になるのか、前もって確実に知るのは不可能です。

でも、次のようなことを考えることはできます。
良い親の資質とはどんなものか、自分は親という仕事をやり遂げられるのか、親という仕事ができそうにないなら、
自分の何を変え、学ばなければならないか、あるいは親という責任を果たすのに本当は向いていないのか。
親のどんな資質が大事だと思うか、自問しましょう。自分の両親、親になっている友人や家族を見てください。
どんな資質が彼らを良い親にしていると思いますか。そういう資質を書き出しましょう。
たぶん、忍耐強さ、愛情、面倒見のよさ、のんきさ、順応性といったものでしょう。
次に、子育てに持ち込める自分自身の資質を書き出しましょう。二つのリストを見比べてください。
あなたの資質のうち、良い親の資質と一致したものはありますか。
良い親の資質リストにあって、自分のリストにないものがあっても、自己開発できるものもあるでしょう。

例えば、あなたがかなり神経質な人で、子育てにはもっと穏やかで無頓着になる必要があると考えているとします。
それなら、ストレスを減らしてもっと気持ちを安定させる方法として、ヨガや瞑想を生活に取り入れることにするかもしれません。
あるいは、あなたは生まれつきせっかちな人かもしれません。でも、大勢の人は、親になってから忍耐強くなったと言っています。
あるいは、良い子育てには不可欠だと思うけれども、今の自分は持っていないし今後養えるとも思えない資質や、今後変えたいとも思わない資質もあるでしょう。このような場合は、親であることは、あなたにとって一番ふさわしい役目ではないのでしょう。
子供を持つ前にペットの飼育をする人もいます。これは子供の面倒をみることと全く同じではないにしても、面倒見のよさや、別の生き物への責任能力を試すのに役立ちます。
良い親になれるかどうかと自問したこと自体が良いサインです。
それは、あなたが本気で責任を引き受けようとしていること、できるだけ良い親になりたいと思っているということだからです。
安心してください。父性や母性をすぐには感じない親でも、子供のことを知り、親の役割になじんでくると、そういう気持ちが育ってくると言われています。

「完璧」な親はいないということを知っておくのも大切です。
誰でも間違えます。幸い、そういう間違いの多くは、人生を変えてしまうようなものではありません。
そして、子供は驚くほど適応力があって、立ち直りが早いのです。

第2節 パートナーが良い親になるかどうか、どうしたらわかりますか。

前出の質問「良い親になれるかどうか、どうすればわかりますか。」のように、あなたが大事だと思う親の資質のリストを考えましょう。

パートナーの資質リストも作ります。両方のリストに共通する資質はありますか。
パートナーとして一緒に親になれば、二人がそれぞれ異なった資質を持ち込んで、調和のとれた愛情のある環境を子供に作ってやることができます。例えば、パートナーは成り行き任せで行動するタイプだけれど、あなたは前もって計画して行動することが好きかもしれません。これらの資質はどちらも親の資質として貴重です。

一方で、あなたはパートナーの親としての能力に少し不安があるのかもしれません。
ひょっとしたら、パートナーが虐待家庭で育ち、切れやすい(罵倒したり、身体的暴力をふるったりする)のかもしれません。
あるいは、もっと些細なことが心配なのかもしれません。
他人の子供やペットと一緒にいるパートナーを観察して、良い子育てをするのには必要そうな、忍耐強さ、融通性、人の面倒を見る能力を持っているかどうか考えてみましょう。
ここから、難しい選択が持ち上がるかもしれません。パートナーが良い親になると思えないのなら、二人の子供を持つことについては熟考する必要があります。
パートナーとの関係が続こうが続くまいが、子供を持てば、人生は複雑に絡み合ったものになります。
あなたがこのパートナーと一緒にいるかどうかは別として、このパートナーがこの先20年以上、親としての義務を一緒に果たしていけると思える人かどうかよく考え、慎重に選択しましょう。
自ら進んで考えるのは怖いかもしれません。

でも、愛情深く子育てに参加する良い親になると思えないパートナーと子供を持つほうが怖いことです。
また、甘く考えないようにしましょう。子供を持つと人生に変化がもたらされますが、人は基本的に変わりません。
そして親であるということはストレスが多く大変なことなのです。
つまり、パートナーがすでに親切で愛情にあふれ、寛容な人でなければ、思いやりがあって愛情深く、寛容な親になることはまずないでしょう。

第3節 パートナーとの関係が、子供を持てるくらい強いかどうか、どうしたらわかりますか。

これは、子供を持つ前に問うべきいい質問です。
カップルは、子供を持てば二人の間の何らかの問題が解決すると考えることがあります。

でも、親であることの負担は、特に親になり始めの時期にはどうしても、二人の関係にかかるストレスを増やします。
親になる時期は、カップルの関係に一番ストレスがかかる時期の一つと考えられています。
二人とも、準備しきれていない役割を果たさざるをえなくなるのです。一日中、子供から目を離さず、世話をしなければなりません。
眠ることもできなくなります。子供は病気になるし、夜泣きもします。カップルの時間はとても少なくなり、
家庭生活はこの新たな家族に左右されます。仕事のスケジュールや出張や残業ができるかどうかにも影響が出ます。
ですから、子供のいる生活を始める時には、パートナーとの関係の基盤がしっかりしているということがカギになります。

こう自問しましょう。
どうやって互いのストレスに対処しているか。些細なことで言い争うか。ストレスがかかってても助け合えるか。
同居を始めたときはどうやって対処したか。一人暮らしから同居生活に変わるのは難しく感じたか。
パートナーから親どうしという関係になったら、二人の間にどんな問題が起こりそうか。

  • 二人は愛し合い、助け合っていると思うか。
  • 二人は信頼し合い、尊敬し合っているか。
  • 二人とも、親になること、そして生活に新しい命を迎え入れ、親としての役割を果たすのに必要な変化を厭わず、犠牲を払う覚悟があるか。

あなたが二人は良好な関係だと感じ、こうした問いへの答えが肯定的なら、そろそろ親になることを考える時期でしょう。

でも、こうした部分の多くに懸念があるなら、子供を持つ前に、二人の関係を改善することを考えるべきです。
こういった問題を乗り越えるのを手伝ってくれる専門のカウンセラーに相談する方法があります。
肉体的、心理的、性的な虐待関係は、子供をもつ状況として絶対に良くありません。
実際に、身体的虐待や暴言は、親になることでかかるプレッシャーと親として求められるいろいろなことによってエスカレートする傾向があります。
子供を持とうと思う前にまず、あなた自身が支援し支えてもらうことに専念すべきです。
子供を暴力の目撃者や犠牲者にするリスクに曝すよりも、自分ひとりで子供を持つほうよいか考えましょう。

第4節 パートナーが良い父親になると思えません。一人で子どもを持てるでしょうか。

前問の「パートナーが良い親になるかどうか、どうすればわかりますか」で、最初にこのテーマを採り上げました。
今のパートナーが良い親にならないことに気付いたら、大きな決断を迫られます。
最大の問題は、「自分一人で子供を持てるか?」です。
また、そのことに関係して、良い親にならないパートナーと一緒に子育てするより、一人で育てるほうが容易か、ということがあります。
このウェブサイトには、一人親の子育ての役に立つページがたくさんあります。
『一人親』や『パートナーなしで子供を持つ長所と短所は何でしょうか』についての質問を見てください。
一人親があなたにふさわしいかどうかを考えるプロセスを始めやすくなります。
知り合いの一人親や、地元の一人親支援グループに連絡を取ることも役立つでしょう。
多くの男女が子育てを一人でうまくやっています。こう自分に問いかけましょう。

  • 自分にとって大切なことは何か。
  • パートナーとこの先もずっと一緒なら、親になるのを諦めてもいいか。
  • あるいは、パートナーと子供をつくることで、彼から離れられなくなってもかまわないか。
  • それとも、自分と生まれてくる子供にとって一人親のほうがいいのか。

今のパートナーと別れて一人親になることを考えている人は、利用できる生殖オプション(※)と、
その問題に明るく、その選択があなたにとって正しいのかどうかの決断を助けることができるカウンセラーに相談するのもいいでしょう。

※訳者注
日本では生殖医療に関する法律はまだなく、
提供された精子や卵子から出生した子供の権利が十分に確保された状況とはいえません。
現在は日本産婦人科学会のガイドラインに基づいて生殖医療が実施されていますが、
生殖医療を受けることが出来るのは夫婦に限られています(事実婚を含む)。また、代理懐胎も禁止されています。
カナダと日本では、法制度や生まれてくる子供の権利や福祉に違いがあることに留意してください。

第6章 後悔する可能性

第1節 長い間待って結局子供を持てなかったら、悔やむでしょうか。

一つの道を選ぶ時、選ばなかった道について何らかの喪失感を味わうことは、人生では避けられないことです。
子供を持つ、持たないという決断についても、多かれ少なかれあてはまります。
親は、不安定でストレスの多い時期には、子供を持つことが正しい決断だったのかどうかと疑問に思うこともあります。
子供のいない友人や家族の自由さや生活がうらやましく感じられることもあります。

チャイルドフリーを選択した人も同じです。かわいらしい子供や幸せそうな家族を見たとき、ちくりと一瞬うらやましさを感じ、もし子供を持つ選択をしていたら、その子はどんな子で、自分たちの生活はどうだったろうと思うかもしれません。
親の死や、姪や甥の誕生といった出来事も、一時的に戸惑いや後悔を呼び起こすことがあります。

とはいうものの、一生子供がいないことに対する感じ方は、現在の状況や決断した当時の選択肢によって様々です。
親になることを期待し望んでいた人は、親になれない場合に喪失感と悲しみを感じるでしょう。

しかし、そういう男女の多くは、別の方法で子供と関わりながら(あるいは子供と関わらない場合も)有意義な人生を築きます。
一方、チャイルドフリーを選んだ夫婦はたいてい、親にならなかったことにあまり後悔を感じません。
親になることについて心が揺れていたり決めかねていた人たちは、現在の生活に幸せと満足を感じているかどうかによって、後悔を感じることもあれば感じないこともあるでしょう。

視覚化のワークは、正しい決断になるか、後悔するかもしれない決断になるか、見極めるのに役立つでしょう。
目を閉じて、今から10年後の自分を思い描いてください。最初のシナリオでは、あなたには子供はいません。
自分がどういう気持ちになるか注意を払ってみてください。子供がいない自分の姿を思い描いてどう感じますか。

感じるのは、悲しみ?孤独?自由?満足?

目を閉じて、今度は親としての10年後を思い描いてください。
どう感じますか。

感じるのは、満足?悲しみ?後悔?幸せ?

次に、両方のシナリオで、もう一度やります。今度は、30年後の未来の自分です。
子供がいない人生は自分の目にどう映り、どう感じますか。成長した子供と孫がいる人生はどんなふうですか。
二つのシナリオが教えてくれることに対するあなたの反応はどのようなものですか。
このワークが終わった後、長い間待ったのに自分には子供がないと悔やんでいるようなら、あなたは今すぐ行動を起こそうと決断するかもしれません。
あるいは、子供を持つ覚悟ができていない、子供がほしいかわからないけれど選択肢は持っておきたい、と思うなら、『精子・卵子の保存』(未翻訳)を考えたくなるかもしれません。
自分に心の準備ができているかどうか確信がもてないなら、『心の準備』(未翻訳)が参考になるかもしれません。

第2節 私は子供をもつことに関心がありません。後になってこの決断を悔やみそうか、どうすればわかりますか。

適齢期に子供をもつことに関心がなかった多くの男女がその後の人生で後悔することはほとんどありせん。
確かに、かわいらしい子や幸せそうな家族を見たときに、うらやましさが一瞬ちくりと胸を刺し、もし子供を持つ選択をしていたら、その子はどんな子で、自分たちの生活はどうだったろうと思うかもしれません。親の死や姪や甥の誕生といった出来事によって、一時的に戸惑いや後悔が生じることもあります。それはいたって普通のことで、すぐに過ぎ去って行きます。

でも、子供を持つことへの関心が徐々に変化していく人もいるのを知っておくことは大切です。
たとえば、適齢期の終わりにさしかかる30代半ばから40代前半になって初めて、母性本能を感じて子供を持ちたくなったと話す女性もいます。
多くの女性は若いうちは自分の生活や自立することに打ち込んで多忙です。自分のキャリアや関心、人間関係を追求する自由を楽しんでいます。そして30代半ばを迎え、何かが変わり始める時が来ます。
友人や兄弟に子供ができて、何かしっくりこない気持ちを感じ始めます。
小さな子供たちに対して自分が以前にはしなかったような接し方をしていることに気付くかもしれません。
友人たちが親になることで喜びにあふれ豊かな生活を送っているように見えるかもしれません。
あるいは子供をもつことに伴う疲労やストレス、混乱、不自由さを目にして、自分達には子供はいらないと納得するかもしれません。

そういうわけで、子供をもつことへの関心は、時間とライフステージによって変わりうるものです。
男性の子供への関心も年を取るにつれて変わることが実証されており、40代になって生活や仕事が安定してくると、子供に関心が出てくることが多いとされています。
若い時に子供を持つことに終始関心を感じなかった男女については、その状態が続いていく可能性が大きく、そういう場合は後悔しない可能性が高いようです。

しかし、決心が揺れていたり、決めかねていたりする人については、将来考えが変わる可能性があります。
自分が後者に当てはまると思うなら、このセクションの他の質問についても読んで、このことをさらに考えてはいかがでしょう。

第3節 パートナーは子供はいらないというのですが、私は欲しいのです。
でも、私はこの関係を続けたいので、子供を持たないことに同意しました。
いつかこの決断を悔やんで、パートナーに憤りを感じるようになるでしょうか。

どんな関係にも、パートナーの希望のために自分の希望は妥協しなければならない時があります。
その逆もしかりです。多分それは、どちらの仕事を優先するのか、どこに住むのかを決めるといったことでしょう。
このような譲り合いは健全な関係にとって大切です。
しかし、二人のうちのどちらかにとって子供を持つことが本当に大事で、もう一人にとっては子供を持たないことが同じように大事だったら、子供をもつかどうかの決断で二人の関係が壊れてしまうことはあります。
ですから、双方の希望を満たす妥協点がない場合は、難しい質問を自らに投げかけなければなりません。

  • 子どもがほしいという願いはどのくらい強いのか。親になることで自分のどんな欲求が満たされるのか。
  • 納得して実現できる他の方法でその欲求を満たせないか。
  • 子供のいない10年後、20年後、30年後の生活を想像できるか。
  • パートナーとの関係のほうが、子供を持つことより大事か。
  • パートナーの望みを叶えるために子どもを持たないことにしたら、恨むことになりそうか。

最後の質問は特に重要です。特にこういう重大な人生の選択をめぐって二人の間に怒りが生まれて溜まると、怨恨の種になってしまうからです。
いったん植え付けられると、怒りはふくれあがり、わだかまることがあります。
これは、実際によく起こります。鬱屈した怒りは、二人の間のあらゆる面を蝕んでいく毒のようになりかねません。
二人だけの関係に尽くして、誰かの面倒をみる方法を他に見つけることはできます。

例えば、子供やペットと関わったり、年長者へのボランティア活動などです。
でも、時が経つにつれて、パートナーに対して憤りを感じ出すかもしれません。
それは、いろいろな現れ方をします。言い争いや口論、浮気、他の形でのパートナーへの「仕返し」。
あなたは、自分が傷つき、混乱し、弱くなり、辛辣になっていることに気付くかもしれません。
自分がどれほど恨んでいるかさえわからないかもしれません。
その鬱屈した怒りが最終的には二人の関係を危うくすることが心配なら、あなた一人でも、パートナーと一緒にでも、カウンセリングを受けることを考えてもいいでしょう。
悔やむかもと心配するのをやめられないのなら、今の関係を維持するよりも子供を持ちたい気持ちの方が強いのでしょう。

二人の関係を続けるために、このチャンスを諦めてもよいだろうか。厳しく自分自身を問いただすことは途方もなく難しいことでしょう。
あなたと一緒に親になりたいという誰かを、他に見つけるなんて不確かなことのために、今の関係の心地よさを捨てるなんて、考えるのも恐ろしいでしょう。
一人親になることを考えるのであれば、『Sole support parenting』(未翻訳)の項や『パートナーなしで子供を持つ長所と短所は何でしょうか』(※)を参考にしてください。

※訳者注
日本では生殖医療に関する法律はまだなく、提供された精子や卵子から出生した子供の権利が十分に確保された状況とはいえません。
現在は日本産婦人科学会のガイドラインに基づいて生殖医療が実施されていますが、生殖医療を受けることが出来るのは夫婦に限られています(事実婚を含む)。
また、代理懐胎も禁止されています。カナダと日本では、法制度や生まれてくる子供の権利や福祉に違いがあることに留意してください。

第7章 行き詰まりの打開

第1節 私は子供がほしいのですが、パートナーにはその覚悟ができておらず、時間がなくなってきている感じがします。この行き詰まりを打開するにはどうしたらいいでしょうか。

あなたは子供をもつ覚悟ができているのに、パートナーがそうでない場合、特にあまり時間が残されていないような時には、かなりストレスを感じるでしょう。そこで、あなたがまず検討すべきは、自分自身の今の生殖能力を調べること(※)でしょう。
しかるべき理由もないのにパニックに陥ったり、神経をすり減らしたりするのは無意味です。
だから、まずは情報を入手しましょう。理想的には、パートナーにも『生殖能力の検査』(未翻訳※)を受けてもらうことです。

※訳者注
いつか妊娠を考えるすべての女性とカップルが現在の健康状態のチェックを受けるための「プレコンセプションケア」を行う医療機関が日本でも増えています。かかりつけの医療機関に相談してみましょう。
参考)国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター

少なくとも、話し合いや決断に必要な、具体的な情報が出てくるでしょう。
パートナーが子供がほしいと思っているなら、子供を持つのに適した時期をいつと考えているのか、正直に話し合う必要があります。
パートナーは子供を持つことについて何か心配があるのかもしれませんし、いろいろな理由で渋っているのかもしれません。
パートナーに心の準備ができるのはいつなのか、把握するようにしましょう。

そして、パートナー自身の生活や、あなたとの関係にどんなことが起きれば心の準備ができたと思えるのかを探りましょう。
お互い譲らず、激しい話し合いになるかもしれません。自分にしっくりしないことがあっても、受け身になりすぎず、激しく反発しすぎず、を心がけましょう。あなたがどう感じているのか、なぜ待てないのかをパートナーに伝えましょう。
それから、パートナーにも同じように考えを話してもらう時間をとって、耳を傾け、パートナーの立場を理解するように努めましょう。
パートナーの立場と感じ方をもっとよく理解する方法、そしてあなたの立場もパートナーにもっと理解してもらう方法があります。

立場を交換するのです。自分をパートナーの立場に置いて、「パートナーの」主張をしてみましょう。
パートナーにもあなたの立場になって、「あなたの」主張をしてもらいましょう。
こういった会話は一回では結論が出ないことを知っておきましょう。
パートナーは、あなたの示した新しい考えに慣れなくてはならないでしょうし、答える前に考え直す必要もあるでしょう。

その逆も同様です。
パートナーに家族をもつ覚悟が本当にまだできていないのなら、子供をもつことを延期する期間を一緒に決めましょう。
例えば、現在取り組んでいる仕事が終わる1年後まで、出産育児休暇が取れる保障のある2年後まで、というようにです。
ほったらかしにしたり、曖昧なまま放置してはいけません。さもないと、時間はあっという間に過ぎて、5年後、子供をもつことについて全く歩み寄っていないことに気付くでしょう。

延期に同意したなら、二人とも覚悟ができた時点で子供を持てる確率が増えるように、卵子や精子の保存(未翻訳)を考えるのもいいでしょう。
この問題の解決をめざして最大限努力しても、お互いに納得できる妥協ができず、にっちもさっちもいかなくなるかもしれません。
この決断は重大なことですし、生殖能力は年齢とともに衰えていきます。カウンセラーに相談して、二人がこの重大な問題を乗り越え、z解決するのを手助けしてもらうのもよいでしょう。
何を言おうが何をしようが、パートナーには子供をもつ覚悟ができそうにない。その時は、自分にこう問いかける必要があるでしょう。

  • これは交渉決裂か。
  • 生涯子供を持たないリスクがあっても、パートナーとの関係を続けたいか。
  • パートナーとの関係を続けることより、子供をもつことのほうが大事か。
  • パートナーとの関係を続けて子供をもたなかったら、後悔するだろうか。後からパートナーを責めて恨むだろうか。

こうした問いへの答えによっては、『Single Parenthood/一人親になること』(未翻訳 ※2)を考える必要があるかもしれません。
あなたとパートナーに役立つ本もあります。

I Want a Baby, He Doesn’t: How Both Partners Can Make the right Decision at the Right Time by Donna Wade (2005)
意見の合わない二人がタイミング良く親になるのを決める方法 ドンナ・ウェイド著(英語版のみ)

※2 訳者注
日本では生殖医療に関する法律はまだなく、提供された精子や卵子から出生した子供の権利が十分に確保された状況とはいえません。
現在は日本産婦人科学会のガイドラインに基づいて生殖医療が実施されていますが、生殖医療を受けることが出来るのは夫婦に限られています(事実婚を含む)。また、代理懐胎も禁止されています。
カナダと日本では、法制度や生まれてくる子供の権利や福祉に違いがあることに留意し、専門家に相談してください。

第2節 私はすでに子供がいて、これ以上欲しくありません。今のパートナーは、子供を作らないことに同意していたのに、心変わりしました。この膠着状態をどう打開すればよいでしょうか。

これは困難な状況で、多くの夫婦が直面するものの一つです。
合意済みと考えていたのに、ここに来て状況が一変し、あなたは困惑し、傷つけられ、怒りを感じているでしょう。
特に、今のパートナーとは子供を作らないことを条件に一緒になった場合には、もう解決したものと思っていたところでそんな状況が出て来て迷惑だと思うでしょう。
この状況は本当に動きのとりようがない膠着状態です。
いくらパートナーと意見を一致させたくても無理です。あなたはもう親になっていますが、彼女はそうではなく、彼女も親になりたいのです。
この場合、あなたはいろいろと対立することになります。
あなたが譲らず、子供を作ることに同意しなければ、彼女はあなたから去るかもしれません。
今、彼女は自分の人生にとって子供を持つことが大事だと決断したのに、行く手にあなたが立ち塞がっていることで、彼女は怒りを感じているかもしれません。

でも、あなたが譲ってもう一人子供を作ることに同意すれば、今の関係ではいられないことは必至ですし、退職する時期も含めて将来の計画や夢が変わることになります。あなたは怒りを感じることになるでしょう。
パートナーは物事をややこしくしたくて変心したのではない、と考えてみましょう。
彼女も、本当に大丈夫だと思っていた決断に今になって疑問を抱いて、驚きや狼狽を感じています。
あなたは、子供のことは“関係を壊す”ものだということを事前にはっきりさせていました。
ですから、彼女は、あなたに去られることを恐れているでしょう。
双方にとって何が最善かを考える前に、あなたが受け入れることができるのは何かを見極める必要があります。
自分に問いかけたい大事な質問をいくつか挙げます。

  • 今のパートナーと子供をもつことを考える方法がなにかあるか。
  • 一緒に親になるメリットはデメリットより大きいか。
  • パートナーとは良い関係か。
  • 二人の価値観は同じか。
  • パートナーは良い母親になるだろうか。
  • 二人とも良い両親になるだろうか。
  • 今のパートナーとの子育ては、あなたの他の子の母親がした子育てとは違う(もっと良い)だろうか。
  • すでにいる年上の子供は、あなたが別の子供をもつことをどう感じるだろうか?
  • この問題によってパートナーとの関係が終わったら、自分はどう感じるだろうか?

このセクションの最初の問い(第7章第1節)はパートナーにも役立つでしょう。
いつでも話し合える状態にしておいて、立場に固執しないようにしましょう。
最終決定の前に、お互いの立場を考える時間を作りましょう。
この対立を独力で解消するのはとても難しいでしょう。
カウンセラーに相談して、二人が問題を乗り越えるのを助けてもらうのもいいでしょう。

あなたとパートナーに役立つ本もあります。

I Want a Baby, He Doesn’t: How Both Partners Can Make the right Decision at the Right Time by Donna Wade (2005).
意見の合わない二人がタイミング良く親になるのを決める方法 ドンナ・ウェイド著(英語版のみ)

第8章 決断の先送り

第1節 長所も短所もすっかり検討してしまいましたが、子供をもちたいかどうか、今が適切な時期なのかいまだに決められません。

あなたは子供を持つことの長所短所をしっかりと考えました。
リストを作って選択肢を考え、友人に相談し、本を読みました。
でもまだ、子供をもつ覚悟ができているのか、できるようになるのか確信がありません。では、どうしますか。
人生を左右するこのような決断には、「木を見て森を見ず」となることがあります。
そのことに近づきすぎて、プレッシャーを感じすぎて決められないのかもしれません。
細かいところにこだわりすぎて、全体像が見えないのかもしれません。

『Fertility test / 生殖能力の検査』(未翻訳※)を受けて、医者に「子供がほしいなら、今すぐ行動しないと」と言われたとしたら、でもまだ何をすればいいのか確信がないのなら、カウンセラーに相談の予約をしましょう。
カウンセラーは、あなたが考えたことがないような問いかけをして、その問題を整理し、どこで行き詰まっているのかを明らかにし、前進するのを助けてくれるでしょう。
今、生殖能力に心配がないのなら、決断を一旦棚上げしましょう。人生の多くのことと同様に、状況が整っていないのに、無理やり、ことを起こすことはできません。
だから、今はこの決断を先送りして、6か月以内にもう一度考える時を作りましょう。
距離を置くことで物事がはっきりに見えてくるかもしれません。
そうすれば、生活の状況も変わっていて、子供をもつことについて別の視点を持てるかもしれません。

※訳者注
いつか妊娠を考えるすべての女性とカップルが現在の健康状態のチェックを受けるための「プレコンセプションケア」を行う医療機関が日本でも増えています。かかりつけの医療機関に相談してみましょう。

参考)国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター